「安心して歩ける」視覚障害者をアプリが道案内 交通機関乗り換えも)

毎日新聞 (2023/06/28

 駅構内などで視覚障害者の移動を助けるアプリの開発が進んでいる。5~6月には全国で初めて、異なる公共交通機関に乗り換える実証実験が茨城県つくば市で行われた。実験に参加した市とつくばエクスプレス(TX)の運行会社は今後導入の可否を検討する。
 「直進3メートル」「点(状)ブロックが斜めに接続されています」――。実験の日、筑波技術大1年の井田怜菜さん(18)が左手に持つスマートフォンから効果音付きの音声案内が流れてきた。井田さんは案内に従って、地上のつくばバスターミナルから地下のTXつくば駅まで階段で下り、改札を通って5号車1番ドア前のホームに戸惑うことなく到着した。
 井田さんら視覚障害や聴覚障害のある同大の学生23人が参加したのは、システム開発会社「リンクス」(東京都)が作るアプリ「shikAI(シカイ)」の実験。リンクスが作ったQRコードを事前に点字ブロックに貼り、スマホのカメラでQRコードを読み取ったシカイが利用者の位置を把握し目的地まで案内する仕組みだ。スマホを路面にかざす必要があるが、アプリの開発に携わり自身も視覚障害を持つ同大の松尾政輝助教(29)は、「QRコードを読み取っている感覚はない。ただ(カメラを)下に向けて持っているだけ」と話す。
 井田さんは実験後、「アプリがあると(行き先や道のりを)知らなくても移動できるって面白いし、便利」と話した。井田さんは人や建物の存在は見えても「文字は全然読めない」。出かける時はいつも家族やヘルパーと一緒だが、「人と予定を合わせなくても、一人で好きな場所に行ける」と期待を寄せた。
 実験に参加した同大4年の北畠一翔さん(21)は「リアルタイムで『右』『直進』と分かり、安心して歩ける。点字ブロックが途切れて探すのが大変な時も(進むべき方向などの)情報を得られる」と評価する。現在は利用者が目的地をあらかじめ登録する仕組みだが、「『この分岐はまっすぐ行くとここに着きます』といった案内だけ流してもらい目的地を決めずに散歩できるモードもあるとよい」と要望した。
 アプリは、音声読み上げなどの機能があり視覚障害者の利用が多いiPhone(アイフォーン)用で、無料でダウンロードできる。今も東京メトロの一部の駅やJR大阪駅の構内などでQRコードが貼ってあり使えるが、異なる交通機関の乗り換えには利用できない。「構内を出ると、道路や施設によって管理者が異なる。複数の鉄道事業者が一つの駅に乗り入れている場合も、全ての管理者の了承を得るのは難しく、案内をつなげずにいる」とリンクスの相談役、小西祐一さん(55)は話す。今回、鉄道事業者とバスターミナルを管理するつくば市も一緒に実証実験を行ったことで「視覚障害者が自分だけで移動できる範囲が広がる可能性がある」と実用化を期待する。リンクスは学生の声を元にアプリの改良を進めるという。